2020年3月 日本文化コラム

【生物】幸せを運ぶ鳥:『ツバメ』

【生物】幸せを運ぶ鳥:『ツバメ』(ツバメの画像)

「燕来る時になりぬと雁がねは本郷(くに)思ひつつ雲隠り鳴く」(大伴家持『万葉集』4144)

(訳:もうツバメがやってくる季節になったのだと、ガンたちが故郷を思って雲の向こうで鳴いているよ。)


冬鳥たちが北を目指して旅立つと、桜の季節に合わせたようにツバメたちが私たちのところにやってきます。今でこそ、鳥たちが渡りをすることが広く知られていますが、かつての日本人は、ガンと入れ替わりにツバメが常世(=とこよ、あの世)からやってくるのだと考えていたのだそうです。

そんな飛来の神秘とともに、春から夏にかけて2回の子育てをするツバメは、その繁殖力から古代中国より子宝と安産の象徴とされてきました。『竹取物語』では、かぐや姫が求婚者の一人に対し、「ツバクラメの子安貝」(=繁殖のときにツバメが生むという貝)を持ってくるという難題を出します。子安貝というのは光沢のある美しい貝で、その形状から女性の象徴と考えられ、出産の際にこれを握り締めていると安産で賢い子が産まれると信じられていました。もちろん、ツバメが貝を産むはずはないのですが、ツバメが子宝と安産の象徴として考えられていたことが端的に表れており興味深いお話です。

また、ツバメはカやハエ、アブなどの害虫が大発生する時期に人里で子育てをして1日に何百匹もの虫を捕食するため、昔から益鳥として大切に扱われてきました。外敵から身を守るために人の出入りの多い家や店の軒先に営巣することから、家のお守りや商売繁盛の印と考えられ、南に飛び立ったあとでも巣を大切に残しておくこともあるのだそうです。

神奈川県小田原市の白髭神社で行われる新年の神事「奉射(ぶしゃ)祭」では、「ツバメ」と呼ばれるツバキの枝でできた鳥型が的に吊るされます。最後の矢が放たれると、子供たちがこのツバメを奪い合う「的破り」で神事が終了します。このツバメを家の戸口に吊るしておくと、その一年が幸運に恵まれると言われています。飛来から一足早い初春の行事でも、ツバメが幸せを運ぶ鳥として扱われているのですね。

「ツバメ」という言葉の由来には諸説ありますが、一説には「土を食んで巣を作る黒い鳥=土食黒女(つちはみくらめ、「め」とは群れのこと)」からツバクラメ→ツバメとなったと言われています。泥道や餌となる虫が少なくなった街でも、せっせと巣作りや子育てに励むツバメたちを見習って、私たちも仕事や学業にいそしむ春にしたいものですね。


※この記事は、2012年3月30日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。

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