2019年9月 日本文化コラム

【植物】月神様の拠り代:『ススキ』

【植物】月神様の拠り代:『ススキ』(ススキの画像)

「我妹子に逢坂山のはだすすき 穂に咲き出ず恋わたるかも」(『万葉集』10-2283 )

(訳:逢坂山のはだすすきなら、愛しいあの子を人目に触れずそっと想い続けることだろう。)


今年は8月終わりから早くも秋雨前線が活発化。気温も一旦はピークを越え、その涼しさに秋の訪れを感じた方も多かったのではないでしょうか。旧暦8月15日に行われる秋の風物詩、十五夜は今年は8月13日(金)です。お月見の前に、十五夜には欠かせない「ススキ」について、少しおさらいをしておきましょう。

都市化が進んだ地域では、ススキが秋風に靡く姿を見たことがない方もいらっしゃるかも知れません。ススキは古来日本の秋の風情には欠かせない植物で、万葉の時代にはすでに「ススキ」という呼び名があり、万葉集にも43首が詠まれているそうです(*1)。

冒頭の「ハダススキ(またはハタススキ)」とは、まだ穂の出ていないススキのことを言います。これは、「穂に出ず」や「尾花」(後述)を導く枕詞で、ススキの穂が旗(幡)を立てたように目立つことから、「人目につく」を意味します。秋風にざわめくススキの草原は、秋の野で印象的に目に残るものだったのでしょうか。

秋が深まり赤い花穂が出てくると「ハナススキ(花薄)」となります。平安時代では、特にこの花薄の状態がことのほか好まれたようです。

「秋の野のおしなべたるをかしさは、薄こそあれ。穂先の蘇枋(すおう)にいと濃きが、朝霧に濡れてうちなびきたるは、さばかりの物やはある。」( 清少納言『枕草子』64段 )

(訳:秋の野の情趣というものは、ススキあってのものなのです。深い赤に色づいた穂先が、朝露に濡れて風に靡くさまは、これ以上のものはないというくらいです。)

さらに、種子に白い毛が生えると、フサフサとした穂を動物の尾に見立てて「オバナ(尾花)」、それを刈り取って屋根葺きなどの材料にすると「カヤ(萱/茅)」となります。

「はだすすき尾花逆葺き黒木もち 造れる室は万代までに」( 元正天皇『万葉集』8-1637 )

(訳:はだすすきや、尾花を逆さに置いて屋根を葺き、黒木で造った部屋は、未来永劫に渡って栄えることだろう。)

お月見になぜススキをお供えするのかということについては、さまざまな謂れがあります。本来秋の収穫に感謝するために同じイネ科の稲穂をお供えするところ、稲穂が手に入る季節ではないので、その代わりにススキをお供えするようになった、というお話。また、月の神様である月読命(つくよみのみこと)が、ススキを拠り代に降臨するためというお話(*2)。いずれも納得の行く理由ですね。

ススキで屋根を葺いた部屋が永代に渡って栄えるとした元正天皇の歌からは、ススキ自体が呪物であるということが想像されます。夏の大祓(夏越しの祓)では、カヤで作った大きな輪をくぐり身を清める「茅の輪くぐり」が行われますし、沖縄では、今でも納骨のあとに「ゲーン」と呼ばれるススキの葉を結んだお守りでお祓いをします(*3)。「ススキ」という言葉自体が、「漱ぐ(すすぐ)」という動詞から来たとも言われています(*1)。ススキがゆらゆらと秋風に揺れるさまを汚れたものを水で漱ぐ様子に見立て、清めのイメージにつなげたというのもなかなか興味深い説です。

まだまだ残暑厳しい日本列島ですが、十五夜の空に満月を拝めるようお供えを準備して、月の神様のお越しをお待ちしてみませんか。

【参考文献】
*1 和泉晃一, 草木名のはなし,ススキ,
*2 イベント@インフォ全国版,十五夜にススキ!なぜお供えするのか?その 意味は?,
*3 明王庵から, 魔除け,
[その他]たのしい万葉集, 尾花(をばな)を詠んだ歌,


※この記事は、2015年9月24日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。

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