【味覚】これさえあれば医者要らず?:『カキ(柿)』
少し前まで数や種類が少なかった店先のカキも、いまはまさに鈴なりです。カキは日本原産であるとも、古代に中国から伝わったとも言われていますが、日本の気候に適し古くから日本中で栽培されてきた、私たちになじみの深い秋の味覚です。
現在、日本にはなんと約1000種類ものカキの品種があると言われています。それらは大まかにと渋柿と甘柿の2つに分類でき、渋柿は果実が硬いうちは熟しても渋いので、干し柿にして食べるのが普通です。平安時代ごろにはすでに干し柿が携帯食や保存食に利用されていたようです。
甘柿は、渋柿が突然変異によってできたものと考えられています。日本最初の甘柿として知られているのは、鎌倉時代の1214年、現在の神奈川県川崎市麻生区にある王禅寺で偶然見つかった「禅寺丸(ぜんじまる)」という品種です。このお寺は1370年の新田義貞の鎌倉攻めの戦火で消失しましたが、その後再建にあたった等海上人が、敷地内の熟したカキがとても美味であったため、近隣にも栽培を広めたとのことです。
カキは「柿が赤くなれば、医者が青くなる」と言われるように、果実にはビタミンC、K、B1、B2、カロチンなどのビタミン類やポリフェノールの一種であるタンニン、ミネラルなどを多く含みます。果実が二日酔いに効くということは江戸時代には広く知られていましたが、これはビタミンCやタンニン、カリウムの働きによるものです。また干柿の白粉(柿霜)は咳止めの薬として、大名から将軍に献上されることもあったようです。 甘くて美味しい果実だけでなく、ヘタや葉、花も漢方薬や民間療法の煎じ薬として利用されてきました。奈良県や和歌山県、石川県の郷土料理である「柿の葉寿司」が柿の葉に包まれているのは、柿の葉に殺菌作用があるためです。
私たちの味覚を楽しませるだけでなく、健康維持にも多くの効能のあるカキ。カキの木の寿命は長く、樹齢400年を超えてもまだたくさんの実をつけることができます。カキの木の生命力をおすそ分けしてもらいながら、寒い季節に備えましょう。
▼柿いり白和え(山形県)
庄内柿で知られる山形県庄内地方の郷土料理です。
※この記事は、2010年10月26日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。
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