2017年10月 日本文化コラム

【味覚】多才な秋の味覚:「アケビ」

【味覚】多才な秋の味覚:「アケビ」

「さのかた*は 実にならずとも花のみに 咲きて見えこそ 恋のなぐさに」
(『万葉集』10-1928)

(訳: アケビのように実を結ばなくても、花を咲かせて姿だけでも見せてくれませんか。恋の慰めに。)

「さのかたは 実になりにしを 今さらに 春雨降りて 花咲かめやも」
(『万葉集』10-1929)

(訳: アケビはもう実がなってしまいましたよ。今さら、春雨が降って花が咲くことなんてありません。)

*さのかた(狭野方):アケビの古名と考えられています。


隠れた秋の味覚 アケビ
 実りの秋には、美味しい新米、お芋や栗など、さまざまな秋の味覚が楽しめます。そんな中、すぐにはぱっと思い浮かばないかもしれませんが、隠れた秋の味覚として知られているのが、山菜の一つに数えられるアケビです。

 もしかすると、アケビは「つる細工」の材料としてご存知の方のほうが多いかもしれませんね。東北の山間地では、古くから積雪期の手仕事として山ブドウやマタタビ、そしてアケビのつるを利用した道具が作られてきました。アケビの成熟したつるを採取して乾燥させ、それぞれの用途に合わせた方法で編まれたざるやかごは、非常に丈夫で何代にもわたって使うことができると言われています。

 冒頭の歌に詠まれているように、アケビは春雨の降る4-5月ごろ、かわいらしい淡紫色の花を咲かせます。秋には10cm前後の、これも淡紫色の実をつけます。この実は十分に熟すと種子を散らすためにぱっくりと二つに割れますが、これが食べごろのサインとなります。「アケビ」の語源は、この実が開いた様子から「開け実」もしくは「あくび」から来ていると言われています。

たくさんの種子を含むゼリー状の果肉部分はほんのりと甘く、恰好の秋の甘味となります。これを食べた動物や人間が種を遠くまで運んでくれるというわけです。まったく自然というものはうまくできているものですね。


芽も実も種もつるも・・・万能植物 アケビ
 東北や北陸では、春には「木の芽」と呼ばれるアケビの新芽をお浸しや炒め物にし、秋にはほろ苦いアケビの実の皮を揚げ物や肉味噌詰めにして食します。秋田では、江戸時代にアケビの種子から油を絞って高級油を生産していました。明治の初期までは高級料亭で使用され、ごま油の5倍の価格で取引されていたそうですが、搾油に手間がかかることから一時は生産が途絶え、平成になって復活します。研究の結果、アケビ油は摂取しても体脂肪がつきにくいことがわかったそうです。漢方では、中空で空気が通ることからアケビのつるを「木通」と呼び、利尿、鎮痛、消炎に用います。実は疲労回復の作用が、また葉や根にも薬用成分があると言われており、まさにアケビは余すところなく利用できる万能植物と言えそうです。

 現在、アケビの生産量日本一の山形県では、山で拾ったアケビづるのかごが山姥の草履だったという民話や、秋のお彼岸にご先祖様がアケビの舟に乗って帰ってくるという言い伝えが残っています。また、仏壇のお供えにもアケビが使われます。生活の道具、食生活、体調不良のときの薬など、アケビが生活に密着した山形ならではですね。

 実は北海道から九州まで、日本中に分布しているアケビですが、地域によってはなかなか食卓に上る機会がありません。アケビの実のシーズンは9〜10月です。来春には新芽が楽しめますので、今年の秋に実を食べる機会がなかった方は、ぜひアケビを春の味覚として楽しんでください。


【参考サイト】2017年10月05日参照

1) つる細工,日本伝統文化振興機構
2) Wikipedia, 「アケビ
3) 果実の知識,アケビ
4) 池本敦,「地域活性化を目指したアケビ種子抽出油脂研究会の活動
5) 7月18日の日本民話,やまんばと名刀

※この記事は、2016年10月24日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。

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