2019年7月 日本文化コラム

【行事】 睡魔を祓う:『ねぶた・ねぷた』

睡魔を祓う:『ねぶた・ねぷた』(ねぶたの画像)

『ねぶた・ねぷた』といえば、青森県各地の夏の夜空を幻想的に彩る、力強い武者の人形燈籠がすぐに思い浮かびますね。青森市のお祭りは「ねぶた」、弘前市のお祭りは「ねぷた」と呼ばれ、語源や祭りの起源については諸説ありますが、いずれも「眠り流し」という、日本各地に伝えられている禊祓え(みそぎはらえ)の習慣であるというのが有力なようです。

この「眠り流し」という習慣は、地域によって時期や方法に違いはあるものの、旧暦7月7日の未明から川や海に行って、水浴びをしたり泳いだりすると、1年間早起きでいられるという言い伝えにもとづいているのだそうです。またこのとき、川や海にいろいろなものを流す場合があるのですが、ある地域では合歓(ねむ)の木と大豆の葉、ある地域では紙人形、またある地域では燈籠と、バリエーションに富んでいます。

興味深いのが、このときに唱えられる文句で、
「ネムは流れよ、豆の葉はとまれ」(埼玉県熊谷地方)
「ネブタなんがれろ、豆の葉とんまれ」(秋田県大曲地方)
「ネブタも流れろ、豆の葉もとどまれ」(青森県下北半島)
など、地域は異なれど、同じような内容になっているのです。

ここでの「ネム」「ネブタ」は眠気のことですが、「豆」=「まめまめしい」の意です。「まめ」とは「真美(まみ)」が転じたとも、「真目(まめ)」の意とも言われ、奈良時代からある言葉で、時代とともに意味の変遷はありますが、浮ついたところがなく誠実である、勤勉である、もしくは実用的である、という意味に使われてきました。

古来日本人は、御霊は海から上がってきて、初秋に送られてふたたび海に還るものだと考えており、彼らが睡魔となってとりつくのを祓うため、「眠り流し」の行事が行われるようになったのではと考えられています。

農繁期でたくさん働かなければならない時期に、暑さと疲れでつい眠くなってしまう。これを祓おうと、各地で同じようなおまじないが考えられたなんて、日本人は昔からまじめだったのですね。

寛政年間(18世紀の終わり)にはまだ四角い燈籠だったという青森のねぶた。人形燈籠が巨大になった今では難しいと思われますが、昔は祭り最後の旧暦7月7日の朝に川や海で燈籠を洗ったり流したりしていたそうです。今年、「ねぶた祭り」「ねぷた祭り」に行ってみよう、と考えている皆さんはぜひ、「眠り流し」の習慣にも思いを馳せてみてください。暑くても、まめまめしく働けますように、と願いながら。


▼弘前ねぷた祭り [青森県 弘前市] (8月1日〜8月7日)

▼青森ねぶた祭り [青森県 青森市] (8月2日〜8月7日)

▼青森ねぶた祭オフィシャルサイト

▼たちねぶた [青森県 五所川原市]



※この記事は、2010年7月20日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。

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