2019年4月 日本文化コラム

【植物】山の神の化身:『サクラ(桜)』

【植物】山の神の化身:『サクラ(桜)』(桜の画像)

「梅の花咲きて散りなば桜花(さくらばな) 継(つ)ぎて咲くべくなりにてあらずや」(藥師張氏福子『万葉集』巻5-829)

(訳:梅の花が咲いて散れば、そのあとを埋めるかのように桜が咲いているではありませんか。)


今年も各地からサクラ満開の便りが届く頃になりました。気候の変化が目立つ昨今ですが、サクラは今年も忘れることなく季節の移ろいを告げに来てくれました。

サクラという言葉には、「咲く」という動詞に、複数を表す「ら」がついて生まれたとする説と、「早苗」「早乙女」などのように、「田」を意味する「さ」と、神が宿る場所という意味の「坐(くら)」が結びついてできたとする説があります。後者ななかなか興味深い解釈ですが、これには農村での慣習がもとになっていると考えられます。

『古事記』に登場する「木花之佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)」は、山の神である「大山津見神(おおやまつみのかみ)」の娘で、サクラを象徴する田の神とされています。秋に山に戻った山神が、春に里に下りてきて田の神になると信じていたかつての人々は、サクラの花が咲くことを、この姫神が父の命でイネの穀霊として降りてきたしるしと考えたのです。人々は、サクラの開花を田植え開始の合図とし、イネの収穫を桜の花で占いました。皆で酒肴を持って桜の木に集い、できるだけ花が長く美しく咲くことを願って祈ったのです。これが花見の原型とされています。

晴れ間が少なく気温の変化の大きかった今年の冬が落ち着き、姫神さまは私たちのことを忘れずに降りてきてくださいました。日本の国を、新しく作りましょうと言うかのように。


※この記事は、2011年4月4日に配信された、NPO法人日本伝統文化振興機構メールマガジン『風物使』の一部を編集・転載したものです。

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